Image caption BBCニュースのアナウンサー、ソフィー・レイワース

イギリスでは3月23日夜、新型コロナウイルス対策として、罰則を伴う厳しい外出制限令が実施された。BBCニュースのアナウンサー、ソフィー・レイワースはこの間、夜6時と夜10時のニュース番組のため、毎日昼ごろ、ロンドン市内を走って市内中心部にあるBBC本社に出勤している。いつもなら人や車でひしめきあうロンドン市内は、今では有名な観光名所もほとんど無人だ。通勤中に撮った写真と共に、レイワース記者が、今のロンドンの様子を説明する。

ロンドン中心部が、不気味なほど静まり返っている。私は生まれてこの方、ほぼずっとこの街で暮らしてきた。行きかう人をすり抜けて歩くのが生活の一部だ。ぎゅうぎゅうの地下鉄に詰め込まれて、ほかの通勤客と肩を並べて会社に行くのも、生活の一部だ。

ロンドンはうるさい街で、私はそれが大好きだった。世界中から来た大勢の人の色々な声が合わさって、大音声になっていた。それがいきなり、ピタッと止まってしまった。

Image copyright Sophie Raworth Image caption 手前の教会の後ろがBBC本社

BBCニュースの本部はロンドンの中心部、オックスフォード・サーカス(広場)のすぐ近くにある。広場を東西に横切るオックスフォード通りは、1日に50万人近くが訪れる欧州で一番混雑する商店街だ。

なのに今では人よりハトの方が多い。人間はみんなどこに行ったのか、不思議に思っているに違いない。

Image copyright Sophie Raworth Image caption オックスフォード・ストリート

私はBBC本社から8キロほど離れたところに住んでいる。この2週間というもの、封鎖された首都の中心に向かって色々なルートをジグザグに走って、通勤している。

本当にあり得ない光景が続く。たまに、ただもう立ち止まるしかないほどの。立ち止まって、あたりを見回して、耳を済ませる。

響きわたる沈黙。これこそが、こちらの感覚を狂わせる。これほど、しん……と静まり返ったロンドンを私は知らない。いつもなら観光客や市民でひしめきあう繁華街のレスター・スクエアに、先日さしかかった。あの時は思わず、ハッと音を立てて息を吸い込んでしまった。あの広場で、何ひとつまったく動いていなかったので。

Image copyright Sophie Raworth Image caption レスター・スクエア

この広場はロンドンのど真ん中だ。なのに、閉鎖された映画館の上から、旗のパタパタという音しか聞こえなかった。

角を曲がると中華街だ。いつものように飾り付けは極彩色の満艦飾だが、レストランはどこも扉を閉ざしている。おなかをすかせた人たちのいつもの行列はどこにもない。

Image copyright Sophie Raworth Image caption ロンドンの中華街

いつもならこれぞ「ザ・混雑」というピカディリー・サーカスでさえ、様変わりしている。ネオンは相変わらずだが、誰が見るのか。巨大広告は、国民保健サービス(NHS)や救急サービスの人たちに感謝する内容に差し替わっていた。

Image copyright Sophie Raworth Image caption ピカディリー・サーカス Image copyright Sophie Raworth Image caption リージェント・ストリート Image copyright Sophie Raworth Image caption ウォータールー駅

ロンドン各地のターミナル駅、ウォータールー、パディントン、セントパンクラス……。どれも毎日、何百万人もの人が通過する場所だ。なのに今では空っぽだ。ほんのわずかな乗客が、少し途方に暮れた、所在なげな様子で構内にいた。

蛍光ジャケット姿の駅職員は「何の用だ」というような表情で私を眺めてから、走り抜ける私に笑顔で手を振ってくれた。

Image caption セント・パンクラス駅 Image copyright Sophie Raworth Image caption キングスクロス駅

リージェント・ストリート、コヴェント・ガーデン、ナイツブリッジ……。どれも世界中から買い物客が集まる地区だ。けれども今では、生活必需品を売る店以外は、どこも閉じている。

Image caption リージェント・ストリート Image copyright Sophie Raworth Image caption ハロッズ百貨店(左)のあるナイツブリッジ

ハロッズ百貨店は創業170年の歴史で初めて、休業中だ。再開の見通しはたっていない。いつもなら華やかなマネキンが並ぶウインドウの前には、代わりにNHS応援の大きい虹の絵が並べてある。

Image copyright Sophie Raworth Image caption コヴェント・ガーデン

コヴェント・ガーデンはいつもなら、観光客や買い物客でいっぱい過ぎて、そこを走ろうとは思わない。けれども今では、シャッターが下りた店の前を走る自分の足音さえ、はっきり聞こえる。この広い市場にいるのは、私だけだ。

トラファルガー広場からバッキンガム宮殿に向かう直線道路「ザ・マル」も走ってみた。本当なら3週間後に、何万人ものくたびれ果てたランナーの1人としてあの大通りを走って、第40回ロンドン・マラソンのフィニッシュラインを越えたはずなのに。

Image copyright Sophie Raworth Image caption バッキンガム宮殿

ロンドン・マラソンではゼッケン番号を、ロンドン東部にある国際会議場「エクセル・センター」で受け取るはずだった。そこは今、新型コロナウイルス専用の仮設病院になっている。何千人もの患者が収容できる。

そして今の私は数万人と一緒に走る代わりに、たった1人でロンドンの通りを走っている。誰かと一緒に走ることは、もう許されていないので。

この街の静けさ。私にはそれが何よりも奇妙だ。何メートルも離れた場所から、鳥の歌が聞こえる。人の話し声が聞こえる。飛行機の音が響くと、ぎょっとしてしまう。

今のロンドンはまるで、見捨てられた映画セットのようだ。

Image copyright Sophie Raworth Image caption トラファルファー広場

走りながら、あらゆる記憶が万華鏡のようにきらめく、この街のことを思う。何重にも重なる思い出が詰まったこの街。家族、友だち、色々な場所、色々なパーティー……。すべてが消えてなくなってしまった、そんな気さえする。とても奇妙だ。

この街が止まってしまった、この奇妙な時間。この数週間、もしかするとこの数カ月のことを、私の子供たちは自分の子供たちに話すのだろう。

ロンドンの日常は戻ってくる。騒音も、ひしめきあう大勢の人も戻ってくる。

それまでの間、私は自分の足を使って通勤を続ける。そして私の街が静止してしまったことに、驚き続ける。

全ての写真はソフィー・レイワース撮影

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(英語記事 Coronavirus: Sophie Raworth's deserted London)